シンガポールの夜

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「・・・だから私、卓さんが契約を結んでしまった気持ちが分かる気がするんです。」 いつも冷静が卓さんが、そんな契約を結んでまでアクセサリーを取り返えそうとした。私は卓さんに会いたくて、誠一郎さんと契約を結んでシンガポールへ来た。 そのむちゃくちゃに見える行動の根底にあるのは・・・。 互いへの愛情。 「私のこと、喜ばせてくれようとしたんですね。ありがとうございます。」 この真面目で隙のない人が、こんな行動を取ったことが今では何だか嬉しい。 堪え切れずに笑うと、つられた様に卓さんも笑う。 「今思えば、美夏に全て打ち明けておけば良かったと反省しているよ。契約のことを話したって、最上さんにはバレなかっただろうに。」 「確かに・・・。卓さんって意外に真面目。」 「こら。」 コツンと額を弾かれる。 行動とは裏腹に、とても優しい目が私を覗き込む。 「今回の件で相当懲りたよ。もう二度と美夏を不安な目に合わせない。」 「お願いします。」 すました声で言うと、卓さんが僅かに首を傾げ、そしてにっこりと笑った。 何故だかその笑顔に、心臓が嫌な音を立てる。 卓さんがこういった笑顔をする時って・・・。 反射的に体を離すものの、卓さんの腕にあっという間に体が絡み取られてしまう。 「本当に懲りたよ。まさか杉崎に良い様にされているなんてね。」 「良い様って・・・表現が悪いです!」 「連絡が取れなかった美夏が、杉崎と一緒にパーティーに現れた時は、心臓が止まるかと思ったよ。」 卓さんは私の頬にキスを落とすと、柔らかく微笑む。 「美夏が頭が良くて、行動力があること、改めて痛感した。」 「・・・っ。」 「気に食わないが、あの状況で杉崎を頼るのは最上の手だったと思うよ。」 卓さんから出る褒め言葉に、胸が熱くなる。 失敗だったと思っていた行動を認めてもらえて、思わず笑顔が浮かぶ。 卓さんは私の頭に手を置くと、ぽんぽんと撫でてくれた。 その手が滑り落ちて、背中に回される。 「ドレスアップした美夏は綺麗だったしね。君が私の恋人ってことが、鼻高かったよ。」 「・・・卓さん。」 「だけど、杉崎の趣味のドレスって所が嫌だね。」 「えっ・・・。」
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