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「美夏。」
優しい声が耳に心地良い。
「うーん・・・。」
でも鉛の様に重い体が辛くて、もう一度意識が夢の世界へ沈みそうになる。
そのタイミングで、もう一度私を呼ぶ声。
「もうちょっと・・・。」
束の間の沈黙の後、困った様な声が聞こえる。
「もうお昼だから、起きておくれ。」
「おひる・・・。」
その瞬間、脳細胞が一斉に目を覚ます。目をぱちっと開けると、そこには苦笑気味の卓さん。
「おはよう。」
「ど、どうしよう、フライトが!!」
確かフライトは午前中だった気がする。
今がお昼だとしたら、もう完全にアウト。つまり帰れない・・・!!
慌ててベットから降りようとすると、卓さんが『落ち着いて。』と言いながら抱き留めてくれる。それから私を落ち着かせる様に背中を撫でる。
「大丈夫。フライトは夜便にずらしておいたからね。」
「え!よ、良かった・・・。」
ふうっと息を吐くと、卓さんが私の顔を覗き込む。
「フライトまで時間があるから、シンガポールを楽しもうか。如何ですか、お嬢様?」
さっきまで焦っていた気持ちが、今度は喜びに塗り替えられる。
『シンガポールで卓さんとデートできるなんて!』
嬉しくてついつい笑みが浮かんでしまう。
「行きたいです。」
「良かった。」
卓さんは私の髪をそっと撫でると、ベットルームのドアに向かう。
ドアを開けて・・・、それから優雅に振り向いた。
「そうだった。聞きたいことが2つあるんだが。」
「はい。」
「結婚の件は有効かな?」
純粋にデートに浮かれていた気持ちが、また一気に塗り替えられる。
嬉しい様な、恥ずかしい様な、泣きたい様な、上手く表現できないけど、熱い熱い想いが全身を駆け巡る。
実際に、頭から蒸気が上がるんじゃないかって位、急激に体温も上がった気がした。
乾く唇をこじ開けて、ようやく声を出す。
「は・・・はい。」
「良かった。」
やんわりとほほ笑まれ、今度は心臓がかつてない程暴れ出す。
思わず心臓を押さえる私を余所に、卓さんが二つ目の質問を投げかける。
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