あっちは大荒れ

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全員で顔を見合わせ、誰ともなく溜め息を吐く。 しばしの沈黙。 それを打ち破ったのは同時に鳴り響いた3人の携帯だった。 律は微笑みながら、健は眉間にシワを寄せて、実里は無表情で携帯を見る。 「卓兄さんだ。」 「卓だ。」 「卓さんからよ。」 3人の声がハモる。 再び顔を見合わせて・・・それぞれに届いたメールを静かに読む。 またもや沈黙。 最初に気を取り直したのは実里だった。 長い髪を後ろに括ると、何故か仁王立ちする。 「とにかくお目出度いお話ですし、私も精一杯やらせて頂きます。指示通りすぐに確保に向かうわ。」 「ああ。じゃあ俺は対外折衝に当たるよ。」 「何で俺だけ体育会系な仕事なんだよ・・・。」 不貞腐れる健を、実里が蹴飛ばす。 「いってえ!」 「そういうの得意でしょ!?さっさと動く!」 律はスケジュール帳を取り出すと、メモ用紙に走り書きする。それを健に渡すと、微笑した。 「まあ、散々迷惑をかけてきた卓兄さんへ、不精な弟達ができる恩返しってことにしよう。」 「律も女関係で、相当迷惑かけてるもんな。」 途端に強烈な裏拳が飛んだが、健はさらりと躱す。 「じゃな。」 「あ!ちょっと待ってよ。駅まで送って行って!!」 廊下を走る音と、何やら実里が怒っている声が次第に遠のいていく。 しばらくすると、がらんとした居間にはテレビの音のみが響いていた。 律はもう一度テレビ画面に視線を移す。 「やっぱり、兄さんって強引だなあ。」 メガネの奥の目が、やんわりと細められる。 「ま、それでこそ、兄さんか。美夏さんには申し訳ないけど。」 独り言つと、律も居間を後にする。 中庭から見上げた空は、高く澄み渡っていた。
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