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<<日本時間13時30分>>
高藤邸から徒歩5分離れた駐車場。そこに勢い良く白い軽ワゴン車が突っ込む。
数秒後、鼻息荒く、数人の男性達がぞろぞろと車から出てきた。
一様に、腕には「関東テレビ」の文字が入った腕章が着けられている。
その中で爽やかそうな白いジャケットを着た男性に、一人のスタッフが話しかけた。
「久々に燃える話題ですね!」
白いジャケットの男性は、女性達がキャーキャー言いそうな微笑を浮かべると、スタッフに向かって口を開く。
「最近話題の人物でしたからね。楽しみです。」
「ええ、良いコメントお願いしますよ!井村さん!」
井村と呼ばれたキャスターは、スタッフから数枚の資料を受け取る。そしてすぐに資料に目を通し始めた。
その間も、他の人間は機材運びやメンテナンスに追われている。
そんな中、大きな荷物を抱えた若いスタッフが井村の下へ駆け寄った。
「大変です!」
あまりの血相に、全員の手が止まる。
「どうしたんだ?」
「こ。」
「こ?」
「こわい。」
「こわい?」
「怖いことになっています!」
「はあ?」
井村は首を傾げる。
周囲を見渡すと、他のスタッフ達も一様に困惑した顔。
それ以上若いスタッフは説明できないらしく、『とにかく高藤邸に来ていてみてくれ。』と懇願する。仕方なく、ほぼ全員で高藤邸に向かうと、確かにそこは異様な景色が広がっていた。
「これは、壮観だな・・・。」
井村が呟くと、先ほど資料を渡してきたスタッフがそれに応える。
「そうですね。」
「この銘って・・・。」
「ええ。高藤健、高藤家3男の物ですね。」
「なるほど、それは厄介だな。」
高藤健は若手の書道家の中でも、最も注目されている人物だ。その作品は、激しさの中にも、どこか優美さをまとっており、熱心なコレクター間で高値で取引されているらしい。更に言うと、本人自体もぱっと人目を惹く容姿をしており、老若男女問わずファンが多い。
「その彼が書いたのかー。これは踏みにくいな。」
苦笑しながら、その見事な作品を見つめる。
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