1902人が本棚に入れています
本棚に追加
/162ページ
<<日本時間17時>>
長時間に渡る会議がやっと終わる。
松尾は軽く伸びをすると、やれやれといった気分で席に戻る為に廊下に出た。
既に夕方なのか、窓の外はオレンジ色に染まりつつあった。
「今日はさっさと帰ろうかねえ。」
今夜のテレビ番組に思いを巡らせていると、向こうから藤本がやってくるのが見えた。
「よ。おつか・・・。」
「松尾さん!」
大の男が、ほぼ涙目になって突進してくる。
あまりのことに思わず仰け反る。が、藤本はそんな反応を気にすることなく、俺の手首をがっちり掴むと廊下を走り始めた。
「はあ!?おい!止まれ!!」
「・・・無理です!」
「意味分からんぞ、藤本!!こらあ、人の話を聞けー!!」
喚く俺を引きずりながら藤本はどんどんと進み、存在は知っていたが、入ることはないだろうと思っていた部屋の前に辿り着く。
「おい、お前・・・!?」
「すみません、すみません!!犠牲になって下さいー!」
「うわあ!!」
拒否する暇もなく、俺はその部屋・・・社長室にぽいっと放り込まれてしまった。
バタンと扉が閉まり、目の前には遠目にしか見たことがない社長やら、専務やら数人が難しい顔をして俺を見ていた。
「し、失礼しました。」
心の中で『あとで藤本をボコボコにする。』と誓いながら、背筋を正す。
すると、社長が渋い顔をしながら、重い口を開いた。
「君のところの井上美夏についてだが。」
「はい。」
「高藤氏との結婚式では、我が社もそれ相応の対応をしなければならない。私も披露宴には出席した方が良いだろう?」
「は・・・?」
ぶわっと全身から汗が出てくる。
『何故、社長が二人の関係を知っている?』
話がついていけない俺を他所に、目の前のお偉いさん方の話は勝手に進んでいく。
「社長、マスコミ対策も進めなければいけませんね。」
「そうだな。」
社長は視線を俺に向けると、僅かに微笑む。
最初のコメントを投稿しよう!