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いつもの通り柔らかな口調で話す卓は、とても冷静だったし、どこか嬉しそうでもあった。
ふと疑問に感じて、どこまでがハプニングであって、どこからが計画なのかと聞いたら、ふっと笑うだけで教えてはくれなかった。
それにしても、美夏さんという子は、なんともまあ面倒臭い男に掴まったと思う。
頭は切れるし、物腰穏やか、人格に優れ、経済界でも書道界でも人気者の卓であるが、その一方で独占欲が強いのを知っているのは何人いるだろうか。
今までは独占欲を掻き立てる相手がいなかったから周囲も平和だったものの・・・、さて、これからはどうなることやら。
卓はきっと、もう二度と美夏さんを離したりしないだろう。そして美夏さんに降りかかる火の粉は、先回りして片っ端から振り落とすにちがいない。
・・・今回のことの様に。
俺は松尾さんを見ると、にっこりと笑顔を作る。
「美夏さんの知人もマスコミのターゲットになる可能性があるので、保護しておく様にと言われたんですよ。卓に。」
「そうですか・・・。」
松尾さんは疑念が晴れない顔をしている。更に何かを言いたげにした時、タイミング良く律と実里が帰ってくる。
「ただいま。美夏さんのご両親連れてきたよ。」
「父さん!母さん!!」
冬悟がほっとした様に両親に駆け寄っていく。
その様子を見ながら、俺はそっと居間から抜け出た。
中庭から見える四角い空には、既にまん丸い月が上っている。
「卓にとっては満願成就の夜か。」
同い年の甥っ子が、愛しい人を手に入れたことは喜ばしい。
その一方で、少しだけ彼らには申し訳なくも思う。
「俺の口から『美夏さんの盾としてこれから働いてもらいます。』なんて言えるかねえ・・・。」
小さく呟きながらもう一度月を見上げる。
月は卓達の門出を祝福するかの様に、美しく輝いていた。
***
松尾達が、卓から「美夏を守って欲しい。」とやんわり言われ、その結果、高藤家のしきたり、親族や知人等関係者、マスコミ対応、各社対応について詰め込み教育をされるのは、もう少し後のこと・・・。
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