エピローグ

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二人で長い通路を歩く。 お互いに無言だったけど、もう姉は震えていなかった。 大きな扉の前に着く。 既にスタンバイしていた父さんが、眩しそうに姉さんを見る。 「綺麗だよ。美夏。」 「・・・お父さん。」 「幸せにおなり。」 父さんが不器用な手付きで姉さんの頬を撫でる。 すると、姉さんの目からたちまち大粒の涙が零れ落ちるのが見えた。 姉さんは数秒だけお父さんに抱きつく。 それから俺を見ると、あろうことか俺にまで抱きついてきた。 姉さんに抱きつかれるなんて何時以来だろう。 懐かしい温もりに、何だか俺まで泣けてきてしまった。 「っ。もう行けよ。」 「うん・・・!」 姉は涙を流しながらにっこりと笑う。 「冬悟。ありがとう!」 涙で頬を濡らした姉は、今まで見てきた誰よりも美しかった。 重い扉が開いて、薄暗い通路に明るい光が差し込む。 それを合図に、二人がゆっくりと赤絨毯の上に歩を進めた。 招待客達が口々に祝福を述べる中、俺は心の中で姉さんに話しかける。 『どうか、幸せになってくれよ。』 『泣きたい時は、俺を頼ってもいいからな。』 『あまり無茶するなよ。』 姉さんは祭壇の前にまで辿り着く。 すると、待ち構えていた義兄が父さんに頭を下げた後、姉さんの手を取った。 憎たらしい程に燕尾服が似合う義兄は、ひどく優しい顔をして姉さんを見ている。 『っていうか、幸せにしないと恨むからな。』 義兄を思いっきり睨みつけると、まるで心の声が聞こえたかの様に義兄と目が合う。 その目が『大丈夫だよ。』と言っているかの様。 「ったく。」 小さく悪態を吐くと、俺は大人しく席に戻る。 静寂の中、式は滞りなく進んでいく。 たくさんの祝福に包まれて、今まさに、新たな夫婦が誕生しようとしていた。 (end)
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