1896人が本棚に入れています
本棚に追加
/162ページ
今日は心底ツイていない日だった。
ため息を吐きながら、井上美夏(いのうえみか)は駅から自宅への道をとぼとぼ歩く。
新人の藤本君がとんでもない失敗をやらかしてくれた。
そのせいで、恋人の高藤卓(たかとうすぐる)さんとの約束をすっぽかしてしまうなんて。
「2週間振りに会えるはずだったのにな。」
ため息がまた口から漏れる。
卓さんは大手企業の社長さんだ。
一年のほとんどが出張。
しかも世界中。
この2週間も、卓さんはロサンゼルスに行っていたはず。
「今日を逃すと、今度いつ会えるのか分からないのに・・・。」
考えれば考える程、藤本君と、自分の危機管理の甘さにイライラしてしまう。
「会いたいな。」
自分の声があまりにも泣きそうで、思わず頭を振る。
「よし。早く帰って、卓さんにメールしてみよう。」
少し小走りになって家に急ぐ。
美夏の自宅は、都内の1DKの賃貸マンション。
狭いけど、それでも仕事を忘れられる私の自慢のお城だ。
ようやく部屋の前まで到着すると、鍵を差し込む。
「あれ?」
鍵がかかっていなかった。
途端に不安に襲われる。
『今までも鍵をかけ忘れたことはあるけど・・・。』
そっとドアノブに手をかける。
ギイっとドアが嫌な音を立てた。
薄暗闇の室内。
目の前に広がった光景に、美夏は目を疑う。
美夏の大事なお城は、無残にも荒れ果てていた。
最初のコメントを投稿しよう!