願ってもない不幸

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今日は心底ツイていない日だった。 ため息を吐きながら、井上美夏(いのうえみか)は駅から自宅への道をとぼとぼ歩く。 新人の藤本君がとんでもない失敗をやらかしてくれた。 そのせいで、恋人の高藤卓(たかとうすぐる)さんとの約束をすっぽかしてしまうなんて。 「2週間振りに会えるはずだったのにな。」 ため息がまた口から漏れる。 卓さんは大手企業の社長さんだ。 一年のほとんどが出張。 しかも世界中。 この2週間も、卓さんはロサンゼルスに行っていたはず。 「今日を逃すと、今度いつ会えるのか分からないのに・・・。」 考えれば考える程、藤本君と、自分の危機管理の甘さにイライラしてしまう。 「会いたいな。」 自分の声があまりにも泣きそうで、思わず頭を振る。 「よし。早く帰って、卓さんにメールしてみよう。」 少し小走りになって家に急ぐ。 美夏の自宅は、都内の1DKの賃貸マンション。 狭いけど、それでも仕事を忘れられる私の自慢のお城だ。 ようやく部屋の前まで到着すると、鍵を差し込む。 「あれ?」 鍵がかかっていなかった。 途端に不安に襲われる。 『今までも鍵をかけ忘れたことはあるけど・・・。』 そっとドアノブに手をかける。 ギイっとドアが嫌な音を立てた。 薄暗闇の室内。 目の前に広がった光景に、美夏は目を疑う。 美夏の大事なお城は、無残にも荒れ果てていた。
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