第1章

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ヴー(N) 新客の礼儀として、わたしは自己紹介することにしました。 でもわたしは、わけもなく胸が高鳴ってすぐに言葉が出ませんでした。 やっとのことで口をひらいたのは、三分ほどしてからでしょうか。 (間) ヴー(Nでなく) わたしはヴーと呼ばれていました。 正式な名前はデジャ・ヴというのですが、これは 男性(以下童話作家)の声 『まぼろし』といった意味だよ。 ヴー そう飼い主が説明してくれました。 ちなみに飼い主は童話作家でした。 ガラ 作家… ヴー (あわてて)童話作家といっても、つ、つまり、本は出していないんですけど… フーガ 本は出してない… ヴー あのかたは、自分の心の中に原稿を書いていたんです。いつも。 ルイ・ルイ …わたしの御主人さまのおやしきのパーティーにもいたよ。そんなタイプが… ガラ そのかたはきっとひどくつらい想いをなさってきたんだわ。 フーガ にえきらない、ただの男さ。 蚊トンボが飛んできて、そばにあるサボテンの上で翅を休める。 フーガ、素早くその蚊トンボに猫パンチをくらわせる。(SE) フーガ いやだ。またやっちゃったわ。 ガラ それで…、 ヴー あのかたは、わたしをとても愛して下さいました。 ルイ・ルイ 仔猫のうちだけさ、愛されるのは。 ヴー えっ? ルイ・ルイ でなきゃ、おまえがこんな捨て猫ホテルへ来るはずがないじゃないか。 ヴー あのかたは…、 童話作家 『お前の体からは、いつもこよなく美しい言葉があふれてくる。』 ヴー そう、わたしにおっしゃって下さいました。 仔猫のうちだけじゃありません。あのかたとお別れするまでずっと…。
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