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「あのスマートフォンの断面はあまりに綺麗過ぎた」
声のした方向に向かって、まるで誰か話し相手がいるかのような気安さで、鬼川は話し掛ける。
いや、そこに誰かがいることを確信している。
「今まで色々な得物を使った奴を相手取ってきたが、似たような得物を使う奴はいた。例えば」
例えばーーワイヤーのような細い糸とか、と鬼川は真上を指差して言う。
だが、真上にあるのは細い糸でもなければ、ワイヤーでもない。
「電線をバラして鋭利な凶器に変えた、だろ?」
むしろ、彼の真上には何も無かった。
「ここは住宅街。電線の一本も無いのはおかしい。ましてや、さっきまで俺が隠れていたのは電柱だ」
今更ながら、良い天気だと思った。電線が無いとここまで綺麗な空を拝めるのか、とも思った。
「随分、手先が器用なんだな。普通バラせねぇだろ? 電線なんて」
「そうですね、私はマジシャンですから」
と、ここでようやく答えになっていない返事がきた。
人を小馬鹿にしたような女性の声だった。
「いきなり頬を弾丸が掠めたのでびっくりしましたよ」
「狙ったからな」
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