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「やっぱ、無理だわ」
それは大学時代のことだった。当時は、内臓も揃っていて、義手ではなく、普通の、生身の腕だった鬼川束はサークルに入るまではいつも孤独だった。
親戚はおろか、両親も事故で亡くし、その遺産で今まで何とか生きてきたけどーー
「もう限界かもな……」
と、一人ごちるのが、毎日のように続いた。見た目が怖かったのか、ヤクザにでも見られたのか、彼の周りに人が近寄ることは滅多に無かった。
そんな時だった。
大学内に刃物を持った不審人物、と言うか、いかれた男が鬼川を含む何人か人質に取り、立て籠った。
元々、運動のセンスには自覚があった鬼川は割とあっさり犯人を無力化した。
その時、鬼川が何を思って、犯人と交戦したかは定かではないがーー警察が来て、無事人質が保護された時、鬼川は珍しく安堵の表情を浮かべていた。
「……約束が違いますが?」
空繰が唸るように低い声で言う。
「そんな約束した覚えが無い。勘違いするな、お前は俺の敵であることに一切の違いは無い」
今更ながら、空繰の頬に傷があることに気付いた。相当怒りを抑えているらしい。
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