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「殺す、殺す! 殺してやる!
ねずみなんか、殺してやるんだッッ!!!」
彼はそう目をひん剥きながら叫ぶと、垂直に強く握り締めたカッターナイフを、思いきり自分の左腕に突き立てた。
「……ッ!」
ボクは、ぞっとした。
彼の狂いようや、自傷行為にではなく。
「……あ、あは……あはは……あへ、へへへ、あはははは、はは……」
ノブナガ君は引き吊った笑顔を浮かべている。
ボクらはみんな、彼の左腕を見ていた。
ぱっくり割れた傷口から、鮮明な、それはもう鮮明な赤い血が流れてきた。
そして、その血の滝と共に流されてきたのは、ねずみの死骸なんかじゃなかった。
生きた、ゴキブリだ。
「血だ!
血、血、血、血だよ!
ワクワクするよね! かーっとなって、わーってなって、ギャアアアアアアアアアア!!ってなるよね!」
ケチャップさんはきらっきらの狂った笑顔で、流れる血と、黄色い腹を向けたまま僅かに羽を動かす血まみれのゴキブリたちを、“楽しそうに”見ていた。
白衣の男は、それだけ見ると、無言のまま引き上げて帰っていった。
「あひ、ははは……
ほら、ほら。ボクの体には、ねずみが……ねずみが……」
ボタボタと、赤い液体と共に黒いものが垂れ落ちる。
ビチョビチョと苦しそうに血の海の中で羽ばたこうとしていて、部屋は戻してしまいそうなほど強烈な異臭が立ち込めていた。
彼と同じ姿を、ボクは動画サイトで見たことがある。
静馬佐尾だ。
脱力したように、血と虫で溜まった池に、へなへなと倒れ込む彼。
彼の足元に、黄色い液体の池が見える。
彼は呆然とした表情で、ぶらんと左腕を放り出したまま、ゴキブリが立ち込める部屋を遠く見詰めていた。
ねずみは、ゴキブリと心を喰い潰すのだ。
彼はねずみを殺すことなんて、できないだろう。
何故ならねずみとは、ノブナガ君そのものだから。
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