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「ジャック! どうしよう、大変なんだ!」
バタン、と大きな音を立てて、我がチンチンランドに慌ただしく入ってきた男が一人、喚いた。
「どうしたよ、シド。
そんなに慌てて」
メディが、相変わらず殴傷だらけのナンシーを連れて中に入るシドに、そう問いかけた。
そうだ。この温厚で穏やか、何事もニコニコして流す天然野郎が、こんなに息を切らして飛び込んでくるなんて、よほどのことがあったのだろう。
シドヴィシャスのように髪を立てるのも忘れて、ペチャンコの頭のまま裸にレザーのジャケットだけを羽織ってスタジオに来るのも珍しい。
普段なら絶対にあり得ないことだ。
尤も、ナンシーがプレゼントした、トゲのついた真っ赤な太いチョーカーとごつい指輪だけは忘れてはいないが。
「真っ先にジャックの名前を呼んだくらいさ。
どうせ大したことじゃないんだろう」
僕がそう皮肉を言って、四冊目の音楽雑誌を手に取った。
元ザ・ラパンズのジョニー・アーデンが、“現”アメリカンスピリッツであり、前の僕たちのバンド仲間だったジョン・マイキーについて発言していると言うのだ。
僕はそれを、ここにいる誰にも話せずにいる。
「違うんだ、ダニー。
本当にトンでもないことが起きたんだ!」
焦った様子で声を荒くするシドの隣で、呆れた顔をしながら一枚の手紙をぴらぴらと揺らすナンシー。
「何だ? それ」
「手紙よ。
ジーンの家のポストに投函されていたみたい」
「脅迫文だよ! 殺害予告だ!」
落ち着いたナンシーの声とは対称的に、シドがそう喚く。
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