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「ああ……、それは困ったねえ。
不安なら警察に届けてみたらいいんじゃないかな?
差出人に心当たりはないのかい?
誰かに恨まれるようなことをしたとか……」
「心当たりなんかありすぎるだろ。ライブをやる度に人を殴ってるような奴だぜ。
この前だってお前にベースで殴られた女が頭のイカれたオトコを連れて怒鳴りに来てたろ」
一人だけ真面目に答えてやるキースに、ジャックが馬鹿にするよう笑い飛ばす。
けど、シドはそれに怒ることもせず、眉を下げ続けた。
「本当に殺されたら、君たちとも会えなくなる。音楽だってやれなくなる。
そして……アビィにだって会えなくなるんだ」
「ジーン……」
シドの言葉に、ナンシーが少し顔を紅くしながら彼を見詰める。
「バンドは絶対に辞めたくないんだ。
でも、このままバンドを続けていたら、僕は殺される。
アビィにだって会えなくなる。
アビィと別れるのは嫌なんだ。
でも、バンドは辞めたくない。
バンドとアビィのどちらかを諦めなきゃいけないなんて、僕にはとても……」
彼の瞳が、少しずつ潤んでくる。
何故か殺害されることを前提に、そして死をすっぽかして、殺害イコール愛するナンシーとの別れ、とリンクさせながら、彼は話を続ける。
「みんなとは別れたくないよ。
でも、……。
アビィ……君とだけは、絶対に別れたくないんだ……。」
「……ジーン、……」
シドはそう言ってナンシーを抱き締める。
彼がついに涙を流し、更には声を上げて号泣し始めたところで、周囲から溜め息が漏れた。
何だこの茶番は、なんて思いながら、僕は読んでいた途中の雑誌に目を向けた。
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