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「ねえ、……みんなに話しておきたいことがあるのだけれど」
小さなギターの音色だけが響く中。寝息を立てながら横たわっているシドを横目に、ナンシーが小さな声で話し始めた。
「……ジーンは、最近このバンドをやっていく上で、すごく思い詰めてるみたいなのよ。
いつも、ジャックやキースは本物の天才だと毎日のように話しているわ。
……そして、自分があんなに凄い人たちと一緒にやっていていいのか、って、いつも言ってるの。」
ナンシーの話し声に、何かしらの行動は止めないながらにも、誰もが黙って耳を傾けていた。
「ほら、あの人、いつもライブのときは暴力事件を起こしたり、注射なんか打ってまともに演奏できなかったりするでしょう。
だから、そんな自分がいて足手まといなんじゃないか、って不安に思ってるみたい。
ずっと伸びていけるバンドなのに、自分が潰してしまいそうな気がする、って」
メディのギターを弾く音が止まる。
そして、十数秒の間が開いて、また再び小さな音色で弾き出した。
「その話をしている時はいつも泣いているわ。
そして、その後で私に当たるの。
私を二十回ほど殴って蹴った後、ジーンはまた子供みたいにわんわん泣きながら私を抱き締めて、何度も何度も謝って……、
コップを割って、その破片で腕を切るわ。それから血まみれの腕でまた私を抱き締めて、狂ったように何度も愛を確かめるの。
もう、これが毎日よ。」
彼女は原型さえも無いようなボコボコの青い頬に手を添えて、困ったように笑った。
そりゃ大変だな、とメディが溢す。
「ごめんなさいね、みんな――こんなに大袈裟にさせてしまって」
ナンシーはそう呟きながら、眠っているシドの髪をいとおしそうに撫でた。
何度も、ゆっくりと。
そして額にキスを落として、「愛してるわ、ジーン」と呟いた。
「何も心配することなんかないわ……あなたは立派なキーボーディストなんだから。
あなたこそブラックストーンズに相応しいのよ……」
ナンシーは優しい瞳で、眠っているシドの頭を撫でながら、いつまでもそう呟き続けた。
きっと、彼女は毎晩、こうやって彼に言い聞かしているのだろう。
そんな彼女を見て、僕はやっと分かった。
手紙を書いたのは、“シド自身”だと言うことを。
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