「闇」アベル・ランヴァン

3/3
前へ
/56ページ
次へ
「やめろ! ノエル!!」  僕は彼女の手首を握って、強く逃げ出した。けれど。 「ッ……」  突然、視界が真っ暗になった。  しまった。闇に包まれてしまった。ノエルも、仲間の姿も、何も見えない。  周囲には、深い闇。  このままなら、僕もノエルも呑まれてしまう。  どうにかしなければ……ッ。 「――――!」  その瞬間。  低い銃声の音と共に、一気に目の前が明るくなった。  立ち止まって遠くを見る仲間たち。緑の草。僕の足元で倒れ込んでいる。煙を吐いて草を焼く銃弾。20センチにも満たない、蜘蛛の死骸。朝の光。 「……、なんだ……」  ……助かった、のか? 「ッ、ノエル! 大丈夫か!」 「……、ッ……」  僕がノエルの肩を揺すると、彼女は眉をしかめてゆっくりと目を開いた。 「よかった……」  ほっと胸を撫で下ろして辺りを見れば、薄い靄のような霧の向こう側から、誰かが歩いてくる。  そこにいたのは、冷たい目で僕らを見下ろす、一人のガンスリンガーだった。 「……ジル」 「もう昼前だ。 蜘蛛一匹に闇を魅せられるなんて、この先が思いやられるな。」  彼はそれだけ言って、スタスタと僕の横を歩いていった。  足元に、一匹の蜘蛛。  そうか、夜はもう明けていたんだ。  僕らが眠りに就き、ノエルがうっかり眠ってしまった一瞬の間に、闇は夢の中から入ってきたんだ。  夜だと思い込んでいたのは“闇”だったなんて、自分の情けなさに押し黙ったまま、ノエルと共にゆっくりと彼の後に着いていった。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加