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「やめろ! ノエル!!」
僕は彼女の手首を握って、強く逃げ出した。けれど。
「ッ……」
突然、視界が真っ暗になった。
しまった。闇に包まれてしまった。ノエルも、仲間の姿も、何も見えない。
周囲には、深い闇。
このままなら、僕もノエルも呑まれてしまう。
どうにかしなければ……ッ。
「――――!」
その瞬間。
低い銃声の音と共に、一気に目の前が明るくなった。
立ち止まって遠くを見る仲間たち。緑の草。僕の足元で倒れ込んでいる。煙を吐いて草を焼く銃弾。20センチにも満たない、蜘蛛の死骸。朝の光。
「……、なんだ……」
……助かった、のか?
「ッ、ノエル! 大丈夫か!」
「……、ッ……」
僕がノエルの肩を揺すると、彼女は眉をしかめてゆっくりと目を開いた。
「よかった……」
ほっと胸を撫で下ろして辺りを見れば、薄い靄のような霧の向こう側から、誰かが歩いてくる。
そこにいたのは、冷たい目で僕らを見下ろす、一人のガンスリンガーだった。
「……ジル」
「もう昼前だ。
蜘蛛一匹に闇を魅せられるなんて、この先が思いやられるな。」
彼はそれだけ言って、スタスタと僕の横を歩いていった。
足元に、一匹の蜘蛛。
そうか、夜はもう明けていたんだ。
僕らが眠りに就き、ノエルがうっかり眠ってしまった一瞬の間に、闇は夢の中から入ってきたんだ。
夜だと思い込んでいたのは“闇”だったなんて、自分の情けなさに押し黙ったまま、ノエルと共にゆっくりと彼の後に着いていった。
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