「不審者」ダニエル・バリー

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 僕たちは楽器を演奏することも、新しい曲の打ち合わせをすることもせず、第二のチンチンランドと呼ばれるスタジオで、雑誌や雑談に夢中になっていた。  勿論、音楽活動もしない、意味のない僕らの集まりには、キースは参加しない。  どこか都会の路上で、甘い葉巻を吸いながら似顔絵でも売っているんだろう。 「ねえ、ちょっと……」  みんなの酒や煙草を買いに行かされた“ナンシー”は、スタジオの扉を少しだけ開いて、複雑そうな顔で僕たちを見る。 「アビィ、お帰り。 お使い頼んじゃってごめんね」  青痣や殴傷だらけでボコボコに変形した愛しい恋人の顔を、シドは天使のようなとびきりの笑顔で見詰め、向かい入れた。 「ええ、頼まれた物は買ってきたのだけど、……」 「うん? どうしたの?」 「スタジオの外で、人が倒れてるのよ。」  おずおずとナンシーがそう切り出した途端、その場にいた全員がそれぞれの行動の手を止め、一斉に彼女を見た。 「人? 誰だ、ソレ」 「酔っ払いかシャブ中の、おまえの連れじゃないのか? ジャック」  ジョンから貰ったお気に入りのブルースハープを磨いていたジャックがそうふてぶてしくナンシーに問うから、僕はそう疑問を投げ掛ける。 「若い男の人よ。 息はしてるから、死んではないと思うけれど……。 今、ここに連れてくるわ」 「ああ、僕がやるよ。 アビィは部屋に居ていていいよ」  心配そうなナンシーの言葉に、シドが人の好い笑顔を見せてスタジオを出ていってしまった。
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