「いちばん」吉原佐世子

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「……でも、それでもアンタは、ケチャップ女には勝てないのよ」  そうだ。 真芝は今日、私と愛し合っている最中、“あの女”の名前を呼んだ。  ああ、私たち―― 「……あんたもね」  どんなに醜く競い合っても、ケチャップさんには勝てないんだ。  ケチャップさんは、自分のしたい髪型をして、自分の着たい服を着て、音楽なんかに目もくれず、血液と死体に興奮して、自分の好きなように生きている。  私も、このマセガキも、真芝の望むまま。髪を切り、茶色に染めた。  ラパンズのレコードも聴くようになったし、真芝とお揃いのベロのTシャツだって着るようになった。  そう。  それでも、全部、真芝の好きなようにしても、真芝の心はケチャップさんのものなんだ。  恨み合って、競い合っても、結局は同じ、似た者同士なんだなあ。  私たち。 「……」  私は何も言わず、家を出た。  夜の、寒い寒い道を歩く。  そうだ。確かに私の中に解き放たれたと思った愛は、ケチャップさんへ向けたものだったんだ。  わかってる。わかってるよ。  私は所詮、あなたの性欲処理具。わかってたよ。  あなたが私のこと、好きじゃないってことくらい。  でも。でもね、真芝。  私、あなたの醜い色ガキには勝ったのよ。  ケチャップさんさえいなければ、私が一番なの。  あの娘がいるから、私が二番にしかなれないのよ。  ああ、私、あなたの好きな人が誰だか、わかってよかった。  これでやっと、あなたの「一番」になれる。
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