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「どのバンドですか?」
「えーっと……キャメルズ」
「お名前は」
「サリヴァンです」
「左の甲、失礼します」
受付の彼女はそう言って、私の左甲にウサギの判子を押した。
ドリンクチケットを一枚受け取って中に入れば、歪むような大音響が、もう既に響き渡っていた。
「何なの、これ……」
友人がどうしても見てみるべきだと言うのでついてきたものの、「開演時間が早くなったから先に行く」なんて、非常識にも程がある。
溜め息を吐きながらステージの上を見上げると、金髪の痩せた男がベロベロと舌を出して、威嚇するように歌っていた。
尖っているその表情が、時折ニヤッと優しい顔に戻る。
私は端の壁に凭れながら、ぼんやりと彼らの音を聴いていた。
それにしても、暑い。
50人、いや、40人も来てないようなこの小さなライブハウスの中が、異様な熱気に包まれている。
前方の真ん中付近では、並々のビールを両手に抱えた男たちが、激しく互いを押し合って、溢れたビールで彼らの体も地面もべちょべちょに濡れている。
全身タトゥーだらけの酔っ払いの女がステージの上に這い上がって、客の頭上めがけてダイブしている。
彼女を掲げようと必死に持ち上げる客と、客の頭の上を舞う彼女を見てケラケラと愉快そうに笑う金髪のボーカル。
奇声を上げながら踊る客。
全員が拳を振り上げながら飛び跳ね、まるで地面が、世界が揺れているようだった。
聴いたこともない音楽は退屈で、ましてそのおかしな人たちが皆して笑っていて、楽しそうで、少し孤独感が生まれる。
暑い。動いていなくとも、ジメッと肌に汗が滲む。
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