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男性の相手に疲れた灰莉は、こっそりとテラスに出る。 「大丈夫?」 不意に声を掛けられ、振り向くとそこにいたのは、統惟。手には水を差し出している。 「あ、すみません…」 灰莉は水を受け取ると一口飲み、微笑みを向けた。 「き、君は権力とかお金とか興味ないの?」 「権力やお金って…そんなに大事ですか?」 「え?」 「何でもないです。あ、そろそろ失礼しますっ」 寂しそうな表情をしたのも一瞬、慌て始めた灰莉。伊丹が迎えに来ている時間だったのだ。 「君!名前は?」 「すみません、家族に迷惑が掛かるので言えません。 あ、お誕生日おめでとうございます」 思い出したように笑顔で言った灰莉に統惟は固まってしまい、灰莉を追い掛けることが出来なかった。 受付を過ぎた階段の所で伊丹と会う。 「お嬢様!お時間過ぎていますよ」 「ごめん!あ!ちょっと待って!」 「待てません」 「靴が」 「はいはい」 「伊丹っ!」 伊丹は灰莉の話を聞くことなく、お姫様抱っこで灰莉を運び、車に乗せる。 この時、灰莉はハイヒールをはいていたのだが、脱げてしまい、落としていた。 「伊丹のばかぁ」 家に着くなり、灰莉はポロポロと泣き出す。 理由がわからずオロオロする伊丹に幸代が話を聞くと、落としたハイヒールは伊丹夫妻に誕生日プレゼントとして貰ったもので大事にしていたものだと言う。 大粒の涙を流し、感情を露わにする姿は珍しく、しかし、そこまで自分達の贈り物を大事にしていたことを嬉しく思っていた。
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