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こんな町、大嫌いだった。暗く重い風も、湿った空気も、みんなが話す方言も嫌だった。
早く早く都会へ、ここじゃない場所へ。
そう思って出て行った東京は田舎の大人たちが話すよりも居心地がよく、いい意味で無責任な場所だった。
出来ることならば、帰りたくないが、何かあれば帰らなければならない場所が故郷。
由美にとってそこは目を細めていとおしむ場所でなく、出来れば捨て去りたい過去の場所だった。
その場所に、こんな形で帰るなんて。
30才も過ぎれば周囲に死人の一人や二人出てもおかしくないけれど、まさかこの年で友人を見送る羽目になるとは思わなかった。
しかも、故郷では唯一の友人だった人間を。
由美は着なれた喪服にそでを通し準備を整える。
髪は後ろに一つにまとめ、喪服に埃がないことを確認して鏡を見る。
ほら、いつもと一緒。鏡の中の自分に言い聞かせる。
いつもと一緒でただ、手を合わせるだけ。
初めて葬式に出たのは中学生のころだった。その頃は制服でよかったからそのまま学校の雰囲気をまとわせて葬儀場に行った。
学校に行けば線香臭えと口の悪い男子どもに囃したてられたが、当たり前だと、相手にもしなかった。
その態度がいけなかったのだろう。
由美の周りには親友と呼べる人間はいなかった。
友人の振りをする事はできる。けれど、相手は恋愛や、先生の話題で、泣いたり、笑ったり。その七変化を見ているだけで飽きてしまって、意味のない作り笑いを浮かべることがしょっちゅうだった。
鋭い人間はそんな上っ面の由美の態度に気付いたが、忙しい中学生は他人にかまけてはいられない。
「それなりに話を聞いてくれる由美ちゃん」として、その座をそっと守っていた。
中2の春に彼女はやってきた。
秋というわかりやすい名前で、9月生まれだという。あっという間に話題の中心になり、その名の由来が由来なだけに嘲笑のネタになった。
秋はそのようなからかいに慣れていたのだろう。ニコリと笑って「つまんねーことで笑ってんじゃねえよガキが。」とどすの利いた声で脅した。
美しい共通語と、田舎では見ない都会っぽい振る舞いと、その言葉にギャップがありすぎて、クラス中が凍ったのを覚えている。
その後も、何度かガラの悪いのが手を出そうとしたが、秋にはかなわなかった。
なぜか秋は一発だけガツンとやると、逃げて行く。
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