第1章

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彼女なりに戦い方を考えていたのだろう。「逃げんな!」そう叫ぶ声もなんのその、ふわりと後ろ手にくくった髪の毛を翻して階段をかけていくさまは、誰が見ても格好良かった。 ある日いつものようにのんべんだらりと昼休みを過ごしていると、秋が近寄って由美の眠りを邪魔した。 ごろりと左を向けが左側に、右を向けば右側に「何?」方言交じりの言葉で由美が問うと、秋はどかりと隣の席に座り込み、にっと笑っていった。 「はじめまして。」 「はあ。」 「斉藤秋と言います。」 「知ってます。」 改めて自己紹介をしなくても、同じクラスにいるんだからわかるだろ。だいたい自己紹介は初日にしてただろ? 秋を無視して寝ようとすると、秋はまた無理やり顔を近づけてくる。 「何。」 多少いらいらしながら聞くと、秋は大真面目な顔で自己紹介を続けた。 「学期途中の転校で戸惑ってます。」 そう言う風には見えないけど、そう思いながら由美は黙って秋の言葉を待つ。 「どうぞよろしく。」 「はいよろしく、もういい?」 「よくない。」 「は?」 ぽかんとする由美をよそに、秋は宿題を取り出し言った。 「前の学校と全然教科書違うんだよね、教えてくれない?あんた、頭いいじゃん。」 それ、誰の情報?げんなりして辺りを見渡すと教室の端で優等生軍団(性格も多少悪い)がこちらにちらちら視線を向けているのが分かった。 あいつらか、でも敵に回すのも面倒くさい。 「面倒くさいなあ。」 「いいじゃん。家も近くだし。あ、今日行っていい?」 秋は驚くほどの行動力の持ち主で、あっという間に由美の家を放課後の根城にした。 最初はいやいやだった由美も、とんちんかんな答えを繰り広げる秋が面白くて、すっかりツボになっていった。 「あんた、頭よくないやろ!」 由美のわりときつい一言も、秋になら言える。 「あ?わからん。」 それが秋の口癖だった。 そのまま、秋の生まれた秋がすぎ、冬が終わるころ由美は生まれて初めて恋をした。 それは恋と呼べるほどのものでもなかったけれど、由美にとっては初めて胸が詰まるような思いだった。 「何?由美、高井のこと好きなん?」 最近習得した方言を駆使して、秋が囃し立てる。 「…うるさい。」 黙って顔を机に突っ伏したまま、由美は自分の耳まで赤くなっているのが分かった。 きっかけは些細なことで、体育の時、高井が由美をかばってボールに当たり、倒れてくれただけ。
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