第1章

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その後、手を差し伸べてくれただけ。 それだけのこと。 「好きって言ったらいいやん。」 「言えんもん。」 「はあ?意気地なし。」 伝えるだけやよ?と必死に秋がけしかけるが由美は無言を貫いた。でも日に日に気持ちが大きくなり、胸のどきどきが止まらなくなり、ついに秋に言った。 「どうしよう。最近落ち着かん。好きで好きでたまらん。」 「いいなあ。」 秋はにんまりと笑い、スケジュール帳を取り出していった。 「ほらちょうどよく、あと少しでバレンタインデーだし、告白しちゃえ。」 勝手に告白の算段をされ、シュミレーションまでされて、その日はやってきた。 秋の行動力は他人にも対応されるのだ。 せめて告白は電話で!という由美の強い要望で、実際の告白は電話で行うことになった。 もっとも秋は不満顔だったが 「そんなの、直接顔見ないと反応わかんないじゃん。」 それはあなたの言い分でしょ、秋。私はそれどころじゃないんだよ、と由美は心の中で呟くがそれを口に出せるような心の状況ではなかった。 夕方、雪深い日で、電話ボックスは半分雪に埋まっていた。 「お互いの家は誰かに聞かれるかもしれないからNG」という事で、どこからかけてよいかわからなくなった。結局、こんな雪深い電話ボックスを選んだ由美たちは本当にあせっていたのだと思う。 今思い出しても馬鹿だと思う。でもそのバカができるのが中学生だ。 二人で何とかドアが開くまで雪をかいて、中に入り込んだ。 外は寒く、ボックス内に二人でいると、水蒸気でガラスがふわりと曇る。 それが何か秘密めいたことをするようで、さらに気持ちを高ぶらせた。 彼の家に電話をすると、直接彼が出た。 心の中で由美はガッツポーズをとる。よっしゃ! 二、三言たわいもない会話を繰り返した後、「好きだ」と伝えた。 彼は少し黙って。「…そう、悪いけど。そういう風には見れないよ。」と返した。 それで終了だった。初恋も電話も。 「わかった。」 と由美は言い 「また、クラスで普通にしてね。」 と告げた。 彼はそこにいないのに、無理やり笑って電話を切った。 一緒にボックス内にいた秋は雰囲気ですべてを察したのだろう。 しばらく無言でいた後に 「笑うな、泣け。」 と言った。 「泣かない。」 「なんで?」 「涙が出ない。」 それは本当だった。初恋で泣く人間もいるようだが、心が豊かなのだと思う。
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