1話 在り来たりな展開

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熊みたいなやつはよろよろと柚から離れ、鳴き声をあげながら走って逃げて行った。 本の角強っ…… 「あ、ねぇねぇこれ見てよ」 「魔法ですか? …得意の属性系の魔法しか覚えないって書いてますけど…僕は火ですか」 「えっ、ちょっと待ってそれじゃあ私は回復魔法系しか使えないわけ? 炎の渦とか濁流でウワーとか、えっ、出来ないの?」 「そういうことになりますね」 「これなんてクソゲ?」 回復魔法しか使えない…モブだ…完全にモブだ… 柚の方が主人公だ… 「もうやだリセットボタンどこ?」 「先輩、後ろ」 「後ろにリセットボタンがあるの?」 振り返ると先程の熊みたいなやつよりも大きなーー恐らく体長三mはあるだろうーー熊みたいなやつがいた。 腕を振り上げた状態で静止している。 やがて来る行動は大いに予測できた。 「こ、こんにちは」 私は柚を突き飛ばすと横に走った。 振り下ろされた爪が私の髪と頬を切って地面の土を抉り取るように叩き付けられた。 まともに当たれば死ぬな、笑みを引きつらせながらあははと笑う。 「先輩!戦いましょう!」 「だが断る!なんであんたはそんなに戦いたがるんだ! 順応早すぎだろ!!ラノベ主人公か!」 「楽しみましょうって!!」 「いっぺん熊に食われてこい!」 楽しみたい気持ちはわからなくもない。 だがしかし私は帰りたいのだ今すぐに。 こんな熊の相手じゃなく私が熊と化したいのだ。
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