第1章

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目覚めー。 それは、生命維持のために必要な生物だけが得た特権。 今、3万年という長い長い眠りから目覚めようとしている1人の少女がいる。 暗い闇。 空も大地もない黒一色の世界。 いつから黒一色の世界にいたのか、髪は腰のあたりまでのび、前髪は顔全体を隠している。爪は10cm以上の長さにまでのびており、長年手入れされていないことを物語っている。 野山で育った野生児のような出で立ちの少女は、何も着ていない状態で身体を丸めて規則正しい寝息をたてている。 口うるさく朝、学校に遅刻するからはやく起きなさい!!と怒鳴り起こす母親や、社会人になり寝坊しないようタイマーセットした時刻に鐘の音を轟かせる時計など、人間を起こす役目のものたちに変わり、3万年という超絶長~い睡眠から少女を目覚めさせる『もの』のご登場★ ずるり……ずるり…… 忍び寄る物音。暗い闇にぼんやりと見える人影。 動作から匍匐前進しているらしい。 かたつむりよりかは速いが分速5cm程しか進まない速度。 少女までとの距離およそ3m。 300÷5=60 まだまだ到着には時間かかるぞ。『頑張ってください目覚し係【おなかま】。ふれーふれー!』(母親、時計) 何処かの声援を受けて人影の速度は上がるはずもなく、亀のごとく進む人影。 目標地点にゴール!! タイムは1時間15分25秒。うわっ、世界最低記録だわ。 肩で息をする人影は、お顔にこれでもかと皺がよった老婆。 呼吸困難起こしそうな呼吸音をたてなから、目の前で眠る少女の両肩を細い手で掴むと、優しく揺さぶり出した。 「お、起きんか……ぜぇぜぇ………!!呑気に……寝取らんで……起きんか……!!」 水分を何日も摂取していないかのようなひどく、掠れた声で少女に語りかけるが気持ち良さげに眠っている。 負けない絶対におこす!と老婆の双眸に揺らめく灯火。揺さぶりと掛け声に少女はいつ目覚めるのか? 口から魂が抜けかけている老婆。あの灯火はすでに鎮火。絶望、あきらめといった負の火が老婆の目に浮かぶ。 「くくくくくくくく、かかかかかかかかぁかぁかぁー!!!ここまで辿りつくまで…………はってはってはいつくばって来たというに………肝心のこやつは起きんか…………。ワシ何してるんじゃ……?何しとったんじゃ…………?」
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