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急に鬱になった老婆は膝を抱えて右手の人差し指で地面にのの字を書き、独り言をつぶやきまくる。
時折、「かかかかかかかかかか!!」と壊れた笑い声をあげて少女を狂気の目で見つめる。
呪詛のようにつぶやかれる老婆の独り言に少女がかすかに反応し始めた。
ーぴくり……と指先が動き、丸めていた身体をゆっくりと伸ばして行く。
両手両足を限界まで伸ばし、大きく息を吐くと首を右、左に傾ける。コキ、コキと首が鳴った。
長い眠りから覚めたばかりで頭の回転が鈍っている様で、しばしぼけっと少女はしていた。
少女の目覚めに気がつき精神が正常値に戻った老婆は、少女の目の前に正座して対峙。目覚ましの役目を果たせた達成感に目を潤ませている。
眠気をおびる瞳をこすり、老婆を見据える少女。
「………やっと起きたか………。てこずらせおって!……なんだその顔は?
起こされた理由がわからんと言いたげだな……?
………悪いが説明しとる時間はない。
やっと『転生【シャール】』が完了したわずかな時、ワシとお前に与えられた対話。
よいか?
ワシがお前に話すことはお前の"一生"に関わる重要な事柄。
しっかり覚えよ!!」
眠気に蝕まれそうな少女の頬を力一杯つまみあげ、意識を強制覚醒させ、真剣な眼差しを少女へとむける老婆。
「お前は"ワシ"で"ワシ"はお前だ。
だが、"ワシ"が記憶したものはお前が生きる上で必要なもの以外、受け継がれん。
恐らく引き継がれるものは、複数の種族の言語、意思疎通、魔術・魔法などの解読能力……発現能力といったところか………」
少女の薄い水色の瞳を見て、困ったとため息をつくと老婆は両耳につけているー水晶を削り作られた耳飾りをはずす。
「………本来"ワシ"の意識が消える時、共に消えるものじゃが……お前に受け継がれるものがお粗末すぎて………。
まあ、これの"所有権"を保有し、肌身離さず身につけておけば、これからふりかかる悪いものは近寄ってこんじゃろ……」
手入れがされず、傷んであちこちにはねている銀髪をかきわけ、少女の右耳と左耳に、己の耳飾りをぱちんとはめる。
「……………」
小声でつぶやかれた言葉に水晶の耳飾りが呼応するかの様に、右耳の耳飾りは赤い光を放ち、左耳の耳飾りは青い光を放つ。
二色の光は少女の身体を包むと散り散りになり消える。
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