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両親にすら男らしいと言わしめるつり目をキッと純に向け、酷薄で女らしくないと妹から評される薄めの唇からは、勝利宣言。
「―――――始め!」
審判を務める先生の、試合開始の声。
針で肌を突くようなピリッとした緊張が走る。
世界から音が消えるこの瞬間を、私はとても愛している。
キンと空気が澄み、私の視界からは対戦相手である純以外の全てが消え失せる。
純の動きは熟知してる。
純はいつも猪突猛進、力任せに掴みかかってくるんだ。
だから、私はいつも彼の力を利用して技を決めていた。
今回も純は、真正面から掴みかかってくる。
いつも通りワンパターンな行動を取る純をじっと見据え、私は腰を落とした。
私がフェイクで動いた瞬間、ハッと顔を強張らせた純の右側に隙が生まれる。
純はいつも、脇が甘い。
――――ほら、勝った。
鋭く足を踏み入れ、その隙を逃さず腕を掴み上げて、一本背負い。――――の、はずだった。
勝利を確信した私の視覚の端に映ったのは、ニッと吊り上がる純の唇。
私が覚えているのは、そこまでだった。
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