キチクなアイツ

18/33
前へ
/198ページ
次へ
「大丈夫? 春香ちゃん」  柔い声に、ふう、と意識が戻ってくる。  優しい韻律を刻む、大好きな智兄の声。  薄く目を開けると、一気に飛び込んできた光の渦に、反射的に瞼が下りる。 「ボクが勝ったよ、ハル」 「!?」  聞き捨てならないそのセリフ。  驚いて飛び起きた拍子に、額に乗った冷たいタオルがポロリと落ちる。 「え、え? 私が一本背負いで、勝ったんだ、よね?」  そうだよね、智兄。  縋るような視線を向ける。  だって、私は純の腕を掴んだ。  そして、そのまま…………。 「腕、かえされて、ね」  言いにくそうな智兄の、次の言葉を待った私は瞠目した。 「う、そ」  嘘、私、負けたの?  なんで?  純に負けたことなんて、今までなかった。  子供のことからずっと一緒に柔道やってきたけれど、いつも遊び半分だった純に、私の邪魔をして先生に叱られてばかりだった純に――――私が負けたの?  まさか。
/198ページ

最初のコメントを投稿しよう!

725人が本棚に入れています
本棚に追加