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「大丈夫? 春香ちゃん」
柔い声に、ふう、と意識が戻ってくる。
優しい韻律を刻む、大好きな智兄の声。
薄く目を開けると、一気に飛び込んできた光の渦に、反射的に瞼が下りる。
「ボクが勝ったよ、ハル」
「!?」
聞き捨てならないそのセリフ。
驚いて飛び起きた拍子に、額に乗った冷たいタオルがポロリと落ちる。
「え、え? 私が一本背負いで、勝ったんだ、よね?」
そうだよね、智兄。
縋るような視線を向ける。
だって、私は純の腕を掴んだ。
そして、そのまま…………。
「腕、かえされて、ね」
言いにくそうな智兄の、次の言葉を待った私は瞠目した。
「う、そ」
嘘、私、負けたの?
なんで?
純に負けたことなんて、今までなかった。
子供のことからずっと一緒に柔道やってきたけれど、いつも遊び半分だった純に、私の邪魔をして先生に叱られてばかりだった純に――――私が負けたの?
まさか。
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