キチクなアイツ

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 女の子らしい格好したら泣くほど嫌がられるって。  それはそれで何か悲しいものがあるけれど。  アイツが泣くほど嫌がるという魅惑的な言葉に心奪われる。 「絶対だよ。泣いて止めるだろうねぇ、そんな格好して街なんて歩いたら。純兄に拉致られるかな? 今までの苦労が水の泡だもんねぇ」 「何それ。何に苦労してるのアイツが。可愛い顔してるくせに自由奔放な俺様で、苦労の元を叩き潰してねじ伏せるような性格の男だよ」 「……ああ、うん、確かにね、手当たり次第に叩き潰してねじ伏せて回ってるよね、あの男」  陰湿陰険な腹黒男……と、遠い目をして何やら回想しだした妹を置いて、私はお風呂場に向かうのだった。  コックをひねりシャワーを浴びながら、私は明日からどんな嫌がらせが待ち受けているのかと考えだしたら、無性に泣きたくなった。  だって、純の機嫌を損ねた翌日は、いつも恐ろしい目に遭うんだから。 「……机にカビたパンが放りこまれるくらいなら、いいんだけど。トイレに閉じ込められて上からトイレットペーパー爆弾とか、布団にムカデとか、レズとか噂広められるとか……」  しかし、さすがに昔使った手は使うまい。  嫌がらせのレベルが昔より上がっていないことを、私は頭からシャワーを浴びながら、滝行をする修行僧のように、ただただ、祈るしかなかった。
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