キチクなアイツ

25/33
721人が本棚に入れています
本棚に追加
/198ページ
 ぷっくりとした肉厚の唇は笑みを刻んでいるけれど、その瞳は大量虐殺しそうなほどの殺気が滲んで見えるのは、私の気のせいだと思いたい。 「ほら、行くよ、奴隷」 「奴隷じゃないし。私に触らないで」  掴まれた腕を振り払おうとするけれど、それを許してくれるほどヤツは甘くなくて。  私なんてお構いなしに、ずんずん進む足をピタッと止めて、クルリと振り向くと、 「ボクに逆らうの? 生意気。逆らった罰だよ。ここでキスしな」  純は、理解不能な言葉を放った。 「はあ?」 「ボクに、今ここで、キスしろって言ってんの。一回で理解しろよブス」  あほですか。  こんな往来で、朝っぱらからキスとか、何バカップル的発想してやがるんですかアナタ。  理解できない。  頭のネジがすぽーんと抜けたとしか思えない。 「寝言は寝て言え」  美少女な顔した変質者に、私は可哀想な目を向けてバッサリ切り捨てる。 「うわ、憎たらしいなその顔。ねえ、そう思うでしょ、兄さん」 「え? 智兄いるの?」  純の視線を追って振り向こうとした、刹那。  両腕を思い切り引っ張られ体制を崩し、あっと声を上げた時には、目の前に美麗な顔が迫っていて。
/198ページ

最初のコメントを投稿しよう!