724人が本棚に入れています
本棚に追加
耳の端で午後の授業開始のチャイムが遠く響く。
でも、純の小悪魔的な眼差しから目が離せなくて。
掴まれた腕に、さらに力がこもった。
「いった……!」
「わかったね、ハル」
腕が悲鳴を上げている。
振り払うことができないほどの、まるで強い意志が表れたかのようなその力に、執着に、すっと血の気が引いてゆく。
「わ、かったから、もう、やめてっ」
涙と怯えの滲んだ瞳で、キッと睨む。
すると、純の腕の力がふっと緩んだ。
「いい子」
瞬間、ちゅ、と軽やかに音を立てて触れた柔らかな感触に、今度こそ純の腕を振り払うことができた。
ちらほらと教室に戻る生徒達のキャーと言う悲鳴、いや歓声? が耳の奥で木霊する。
ほ、ほ、ほっぺにちゅう、された!
しかも見られた!
見られてしまった!
「し、し、信じられないっ!」
「ハル、顔、真っ赤。トマトみたい」
ブサカワ。
そういい残し、教室に戻るべく上機嫌に駆け出した純の後姿を、私は硬直したまま――――彼の姿が小さくなるまで、呆然と見送ることしかできなかった。
最初のコメントを投稿しよう!