旅の終わりは新たな旅の始まり

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グアム。 マリアナ諸島の南端の島。 その島は美しく、年間百万人もの観光客が訪れる。 温度変化が少なく、年平均気温は約二六度と常に南国を楽しめる観光名所だ。 その島を訪れた者は口をそろえてこう言う。 来て良かった、また来たい、と。 その島は美しい。 その美しさゆえに人は何度も足を運ぶ。 それが出来ない者は? 決まっている。 諦めるか、予定より少し長く滞在するかだ。 そして、グアム沖の海の上にプカプカ浮かぶ船にも滞在予定よりも長く長くグアムにいる釣りバカがいた。 「来た!!」 この男、この船を降りればそのまま空港に行き日本に帰る予定である。 ゆえに、今釣った五十センチ以上のカツオは食べることも持ち帰ることも出来ない。 「おっしゃ! まだまだ釣るぜー!」 だがこの男、興奮のあまりそんなことは忘れているようだ。 この男、名は爪牙(そうが)。 筋肉質な外見は一見大雑把な性格に見えるが、冷静で物事を見る観察眼を持っている。 人付き合いはそれほど得意ではないが、黙々と作業をし目的を確実に達成する。 それがこの爪牙という男だ。 「船長ー! 今日も大漁だ!」 「おう! ありがとうよ!」 船を操縦する船長は地元の者だ。 爪牙を何度も船に乗せ、一緒に食事を取ればそれはもう友と呼ぶほかないだろう。 今ありがとうと言ったのは、爪牙が釣った大量の魚を持ち帰れないことを知っているからだ。 生簀に入っている爪牙が釣った大量の魚は全て船長の物となる。 爪牙はそのことに気付いていないようだが、この爪牙という男は持ち帰れないことを知っても全く落胆しないだろう。 それだけこの男はグアムを、釣りを、今この時を楽しんでいるのだ。 「いやー! グアムは最高だった! 透き通るような海に白い砂浜! 暑すぎない気温に美味い飯! 本当に最高だった!」 「今度来ることがあればまた俺の船に乗ってくれ!」 「おう、もちろんだ!」 爪牙はとても満足していた。 何のトラブルも無く、友人もでき、充実した毎日をここグアムで過ごしたのだ。 「うお、こりゃでかいぞ!」 だが、爪牙がトラブルに巻き込まれるのはこれからのようだ。
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