旅の終わりは新たな旅の始まり

7/7
前へ
/7ページ
次へ
死ぬとわかって人生を振り返るのも悲しくなるだけだ。 それがわかっているから爪牙は何も考えていない。 考えるのが怖いのだ。 結果、無意識にだが爪牙は生命を少しの間維持する行動をとっていた。 渦潮に飲まれては人の力では脱出できない。 動けばそれだけ無駄に酸素を使う。 爪牙は動かず、渦潮に飲まれた。 何かの器官を使えば、酸素を使う。 考えれば脳が酸素を、目を開けば目が酸素を使う。 爪牙は何も考えず目を閉じていた。 何らかの奇跡が起きて、海上に出ることを願いながら爪牙は息を止めていた。 「…………」 それに爪牙は窒息死が苦しいことも知っている。 この男が息を止め動かないでいるのは、その苦しみから逃げているのが一番の理由だろう。 「…………っ」 泡が一つ、爪牙の口から飛び出た。 そろそろ苦しい。 手を口に当て、空気を漏らさないように力を込める。 渦潮が爪牙を深い深い海の底へと誘う。 死へと。 そんな自身に死が迫る中、気づかずに竿を掴んでいるあたり生粋の釣りバカなのだろう。 ――― ―― ―
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加