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 のどかな夏山の斜面が戦場になった。  軍用ヘリコプターが発射したミサイルは、先ほどまでタツオたちが昼食をたべていたブランケットに着弾する。瑠子(るこ)さまお手製の料理が詰まった重箱が宙を舞った。サイコのお握りもアルミ箔(はく)を夏の陽にきらめかせながら飛び散っていく。 「あー、おれたちの昼めしが!」  クニが振り向いて叫んだ。テルがいう。 「昼めしより自分の命を心配しろ。全力で駆(か)けて、林に逃げこむんだ」  タツオは瑠子さまの手を引いていた。いつの間にか思い切り握ってしまったようだ。 「タツオさん、痛い」 「すみません」  タツオはそういったが、今度は細い手首をつかんで走り続けた。女の子の手首は男子の手首よりも細くて華奢(きゃしゃ)なんだな。ミサイルによる空爆の白煙のなかを突っ走りながら、場違いな印象をもつ。
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