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「ヘリコプターが二手に分かれた。一機はSP、もう一機がこちらを狙ってる。SPのおっさんたちは、さっきの草原が抜けられないみたいだ。林を遠回りしてこちらに向かってくる」
タツオはブナの巨木の下にしゃがみこみながら、まだ瑠子さまの手首を握り締めていた。サイコがキレ気味にいう。
「いつまで皇女さまの手を握ってるのよ。タツオ、あんた、不敬よ」
「あっ、すみません、瑠子さま」
火のついたティッシュペーパーでも投げるように、あわてて手を放した。瑠子さまが顔を赤らめていった。
「いいえ、だいじょうぶです。安全な場所まで誘導してくださって、どうもありがとう」
戦闘状態のなかで聞くていねいなお礼は優雅だが、ひどく場違いな気がした。なんとしても、この人を傷つけるわけにはいかない。瑠子さまはいつか日乃元(ひのもと)の女皇になるかもしれない人だ。ジョージがテルにきいた。
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