第三章 気分転換の昼下がり

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 朝、11時。  四条の河原町と烏丸。その間にある新京極と呼ばれる商店街がある。  古い町並みで静かなイメージをされる京都だが、ここはそのイメージとは逆に様々な店が集まり、大きな活気がある場所だ。  飲食店も数多く、映画館も、本屋も、路上売店も、銃(レプリカ)の店もある。そんなところを楽しいそうに歩く一人の少女がいた。 「ふふん、来ましたよ来ましたよ。来た来た来たぁぁぁ~~~!! ご主人様とのデート!! 身を削り、尽くしたかいがありましたよ。これこそ至上の喜びである」 「………」  このテンションが高い少女は狐耳を生やした少女のサーヴァント『キャスター』である。今はいつもとは違い、現代風の衣装に着替えていた。  チャックを大きく開けてブラとその谷間を思い切り強調した桃色と白色のうさ耳パーカーを身に着け、先に赤色の模様が入った黒のショートパンツとタイツを履き、そして同色の黒のブーツを履いている。  そして横にはその少女に片腕ををがっしり掴まれ、あまりのテンションの違いから顔が引きつり気味の神無木せつの姿があった。彼もまた少ししゃれた格好をしている。  二人がこのような格好をしているのは目立たないためではあるのだが、神無木せつなはともかくキャスターのその露出が高い格好とそれに伴う彼女自身の高いプロポーションのせいで余計目立ち、キャスターに見惚れる男が続出していた。 「ふふん。デートデート。なんという興奮、なんという興奮。夫と妻。これほどの幸せがあっただろうか……」 「いや、ちょっとキャスター近すぎるよ。もうちょっと離れて歩こう。む、胸が……当って」 「え? 何ですかマスター?」  キャスターはマスターの心意を分かりきっていながら、自分の胸をスリスリと神無木せつの腕に押し付ける。 神無木せつなも男。こんなことをされては冷静ではいられない。顔も赤くなってしまっている。 「キャスター、お前わざとだろ……」 「ふふふ、夫を魅了するのは女の宿命。男を落とすには自分のプロポーションを最大限利用しなければいけません。そのための努力は怠らないものなのですよ。まぁすでに夫婦の契りを交わした間柄ですがね」 「サーヴァント契約だ」 「ふふふ、まぁいたずらはこれくらいにしておきますねマスター。でも本当に今日はマスターとデート出来ると思ってこの服も頑張ってこしらえたんですよ。どうですか、これ可愛いですか?」  キャスターは胸の押し付けは止めてくれたが、代わりに上目遣いでこちらを見つめてきた。  そんな顔をされてはどんなにキャスターに苦手意識を持っていようと耐えられるわけがなかった。 「か、可愛いよ……」 「きゃん! ありがとうございます。照れるマスターもなかなかに可愛いでござまいすね。」 「う、うるさいな」  キャスターの色仕掛けに毎度呆れる神無木せつなではあるがやはり可愛いことには変わりない。 「そ、そんなことより、周りを見てみろ。目立ちすぎだ……」  たまらずキャスターの関心を周りへ移そうとする神無木せつな。だがそれは事実だ。キャスターの格好とそしてその狐耳と尻尾はあまりにも目立ちすぎている。ましてや傍から見てあまりの熱愛っぷりに先ほどよりさらに増えた視線が集まっていた。 「まぁ、いいじゃないですか。こんなに見られると逆にそそられるものがあります。あぁ、なんだが尻尾もそそり立ちそうでする」 「興奮するな、馬鹿! 本当に目立ちすぎだし、何よりとても恥ずかしい!!」  大勢に見つめられる状況、敵のマスターに見つかる確率は確実に跳ね上がる上に、なによりこのラブラブにくっついてくるキャスターそのものがとてつもなく恥ずかしい。  周りの状況を見て流石にキャスターも冗談が過ぎたと思ったのか、服からするっと何やら怪しげな紙を取り出した。 「まぁ、お任せあれマスター。青いたぬき型ロボとまでは行きませんが、私とて何気にキャスター。ひみつ道具の一つや二つ持っているものなのですよ」  キャスターが取り出したのは簡単な人の形をした紙だった。いわゆる式神みたいなものだろうか。そしてそれを何枚も周りにばらまいた。 「そりゃ~~、さっきの興奮はうそじゃい!! やはりお前らなんかに私のご主人様をジロジロ見せてやるものか。とっとと向こうを向きやがれ~~~!!!」 「キ、キャスター!?」  キャスターがその紙を放ったその一瞬、異様な感覚に神無木せつは包まれる。だがその違和感もすぐに収まった。 「一体、何を……?」 「さぁ行きましょう、マスター」  状況がいまいち理解できない神無木せつなをキャスターはまた腕を掴んで歩き始めた。 「お、おいまた目立つって……、あれ」  しかしながら心配は杞憂に終わった。周りの人々はあれほどまでに二人に注目していたのに平然と歩きだしていた。 「こ、これは一体。キャスター、お前一体何をしたんだ? まさかやはりさっきの紙に何か……」  神無木せつなはキャスターに掴まれながら姿勢を下ろしてその人型の紙を拾った。 「ネタをバラせば単に魔力を瞬発的に放って気を散らしただけですが」 「な、そんなことが出来るのか…」  神無木は手に取った紙を見つめた。魔力とは違うが、確かに何か特別な力が感じ取れる気がする。 「あ、それただの紙です」 「ただの紙かよ!!」 バン!!  神無木せつまは紙を思い切り叩きつけた。 「ナイスアドリブ、ナイスツッコミ流石です、ご主人様」 「褒められても嬉しくねぇ。何なんだよ、今の舞とか、この紙とかは!!」 「まぁまぁこれは演出というものです。とにかく人の目は気にならなくなったということで万事OK。これで心置きなく二人のデートが出来ると言うものです。ね、ご主人様」 「はいはい。わかったわかった」  キャスターの行動にはいつも困らされる。だが時折見せる可愛い笑顔に最後まで言い切れさせてくれない魅惑がある。 「しかしだ。さっきの魔力放出とやらは大丈夫なのか? 敵に居場所を知られるだろに」 「まぁ、軽めにやっといたので大丈夫ですよ。たぶん……」 「たぶんって……、おいおい」 「実は私が感知したところによると何故かこの京都の地は魔術師が多いようです。それに伴ってか魔力がかなりはびこっているように感じます。だから我々が多少動いた所で他のサーヴァントにはわかりませんよ。昨日のような大きな戦いがない限り大丈夫大丈夫」 「ちょっと待て、全然大丈夫じゃないんだけど。なんだその重大な事実は……」 「細かいことはさておきです。時間がなくなってしまいます。もらった時間は有限有限。さぁ、まずは映画館に出発ッッ!!」  キャスターはそのまま駆け出していってしまう。 「おい、全然細かくねぇよ!!」  神無木せつは走り出したキャスターを追いかけ、あまりにも楽観的なキャスターに怒りの咆哮を上げていた。 ドカ!! 「痛てっ」  その時、『見知らぬ男』がすれ違いざまに肩にぶつかって来たのだった。倒れるほどではないが少しよろけてしまった。 (なんだあいつ、全身黒ずくめで怪しげな……)  彼は無礼な態度に注意を促そうとしたが、その不気味な雰囲気にたじろいてしまう。 「………」  彼はその男を気にしながらもキャスターの後を追ったのであった。
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