第三章 気分転換の昼下がり

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『ほう、流石。九尾の狐、いや玉藻前だな』 「!!?」  キャスターの言葉が終わった瞬間、上映場所の出入り口付近で見知らぬ声が響いた。しかも突然、キャスターの真名を叫ばれたのだ。 「だ、誰だ!?」  神無木せつなとキャスターは一斉に声がした方を向いた。そこには赤い髪の青年が立っていた。 「さ、さっきの声はお前だな。なんだ、なぜこいつの真名を知っている!?」 「さてね……」 「………っ」  神無木せつなは彼を睨みつける。赤い髪の青年のその妙な雰囲気に加えて、男はキャスターの真名を知っている。  右のキャスターを玉藻の前と呼ぶこと自体、聖杯戦争の参加者である事は間違いない。しかも真名が割られていると言うことはさらにこの男への危険度が上がる。  初めての他の参加者との対峙と言うのもあったのだろう。神無木せつなは多少震えてしまっている。 「まさかこいつがもっとやばいことなのかキャスター?」 「いえ違います。確かにこの男も危険だとは思いますが、そこまで構えなくても大丈夫なようです」 しかしキャスターは冷静だった。この男がキャスターの言う最大の危険ではないらしい。 「でもな……」 「その娘さんの言うとおりだ。俺は別にお前らに危害を加えようとしてここにきたわけじゃねえよ。興味本位だ興味本位。しかも俺はお前が危惧してる『聖杯戦争』の参加者じゃねぇよ」 「…………」  赤い髪の青年は自身が敵ではないと言った。がそれはそれで気になる点はさらに増えた。 「聖杯戦争の参加者じゃないなら、なぜサーヴァントのことと、キャスターの事がわかった?なぜそこまで詳しい。キャスターと違って俺はお前の不信感が拭えない……」  何故か気に食わない。赤い髪の青年の態度が神無木せつの癪に障っていた。 「おいおい、俺ばっかりにかまけてないでそろそろだぞ、気をつけろ」 「??」  青年の言葉に疑問符が頭に浮かんでしまう。 「来ます……」  青年の言葉に続き、キャスターが声を発した。  すると ずうん!!!!!!!!!!!! 「ぐぅぃううう……!!!!???」  突然、重い空気に包まれた。 「な、なんだこれは……。き、気分が悪い……」  気分がとてつもなく悪くなった。  だがそれだけではない。先程まで賑わっていた映画館内の声が一斉に止まっていた。そして気づくと上映室に残っていた他の客たちが、神無木せつなと同じように気分を悪くしてぐったりと倒れ込んでいた。 「こ、これは一体……?」 「もうだからシリアス展開は嫌なんですよ!! せっかくのデートが台無しに。くぅぅ、ショック!!」  そしてこの状況に完全に嫌気がさしたキャスターは思い切り吠えた。 「お、おい。どうなってんだ、キャスターこれは……」 「一種の結界のようです。強力な。さっきから結界を張る準備をしている魔術師たちを感知出来ていたので、やっぱりって感じですが……」 「おいおい、わかってんなら言え……よ。……てかさっきからすごく意識が……。なんの結界なんだ……」  うまく頭が働かない。気分が悪いことに加え、意識が朦朧としてきた。そして体を動かそうにも、思った通りに動いてくれない。  その様子を見かねたのか、赤い髪の青年は神無木せつなに助言をした。 「おい、キャスターのマスター。魔力を放出しろ。突っ立てると本当に意識を失うぞ。それが出来んならその馬鹿程の魔力を持ったキャスター本人にくっついておけ。魔力供給が効率的に行われて、なんとかなるかもな」 「ムキー!! なんであんたなんかに馬鹿なんて言われなくてはならないんですか!! まぁ、ご主人様に合法的にくっつける理由を言ってくれてナイスですが」 「おいおいおい……」  キャスターは言われてすぐに神無木せつの手を握りに行った。 「これで大丈夫らしいですよ、マスター……」  そしていやらしいように両手をスリスリとこすりつけてきた。 「やめろ!!」 ゴン!! 「あて」  たまらず、頭を叩いてしまった。 「こんな時にセクハラをするんじゃねえ!! ってあれ? 体が……」  つい手が動いてしまった神無木せつなだったが、何故か体をうまく動けていることに気づいた。意識もさっきよりはっきりとしている。  その様子を確認すると赤い髪の青年は再び二人に語りかけた。 「この結果はどうやら中にいる対象者の生命力を吸い取るようだ。そして衰弱させる。根本は全く違うがかつてメドゥーサが使用した『アンドロメダ』に似ているな」 「メ、メドゥーサ?」 「あぁ、そうさ。まぁどちらも魔術を通して吸い取るって事は対魔力で対抗できるだろう思ったまでよ。尤もサーヴァント規模ではないから殺すほどのレベルではなさそうだが」  青年はそう言って、軽く口を緩めた。 「本当に何なんだお前は、なぜ俺たちに助言を!?」 「そうさねぇ。俺は気ままに面白くなるように生きてるだけだよ。そして今まさに最高のエンターテイメントを発見した。そんな中、爺さんが起こしたしょうもないことでリタイアされたら面白くねぇだろ……」 「面白さだと…………、こんな状況なのにか……?」  人が重体になっている。そんな中なのに赤髪の青年はヘラヘラと笑っている。その様子に神無木せつなは怒りを覚えてしまう。 「だから睨むなって。この規模じゃ周りの奴は死なねぇよ。俺はこの周りの連中を見て愉悦を感じる性格じゃない。お前たちだよ、お前たちが俺の楽しみだ。しかもなこの術はすぐ終わる」 「それでも、俺はあんたを気に食わん」 「ふん、だがな俺が何も言わなかったらお前は本当にリタイアの可能性だってあったんだぜ。この術で死なないにしろ、他のサーヴァントは常に命を狙ってる。むしろ感謝して欲しいもんだがね」 「………っく」 「それにな倫理的にいかすかねぇと思うのなら、俺よりむしろ外で人を殺しているやつを叩く方が先じゃねえのか? まぁ、どうするかはお前の正義感次第だが……」 「てめぇ……」  赤髪の青年の言葉に腹が立ち、拳に力が入る。 「マスター、抑えて下さい。あんな奴を相手にするより、むしろわたくしの相手を……。あ、いえいえ、今は外の様子を見に行きましょう。ここにいても時間の無駄です」 「……。わかった。行こう」  だがキャスターの説得で、神無木せつなは手を下ろした。だが完全には納得言っていないようで、もう一度青年を睨みつけたあとに、映画館の出口に向かった。 「ふふ、なかなか面白い奴だったな」  二人が出て行った後。青年は口を開いた。 「しかしまさか例のサーヴァントを探すためだけにここまでするとは末恐ろしいなあの爺さん。完成が近いからか? しかもおそらくキャスターが言っていた外での生命反応の消失ってのはその例のサーヴァントっぽいな……」  赤い髪の青年はそう言い終わると、青年も出口に歩き始めた。 「いやぁ。面白くなりそうだな」
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