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「お呼びですか、父上」
父からの呼び出しは、いつものこと。決まって良い話など1つもない。
それでも息子たる少年は、にこりと、華やかな笑みを浮かべた。
音もなく広間に現れた息子に軽く一瞥をくれるだけで、父はすぐに視線を戻し、ゆっくり玉座に座ると足を組む。その姿は、まさに年若い美しい王たる威厳に溢れたものだったが、自分には見慣れた光景だった。
ただ、笑顔を作るたびに自分に射るような空気を送ってくることは間違いない。分かっていてやっているあたり、父と性格が似ているのだろうと思う。
従順な配下は自分がこの部屋に入った瞬間に姿も気配も消し、今は父と二人きり。
「儀式の日が来た。」
「儀式?」
小首をかしげるが、特に回答らしい回答は来ない。
だが、自分は父が今から何をしようとしているか、実は知っている。
それを知ってか知らずか、父は淡々と告げる。
「お前のその性格、その表情、魔国の王子としては相応しくない。故に、今からお前と、とある少女の性格を入れ替える」
その言葉に、笑顔を半分引っ込めて、少年は困った顔をした。
「少女…ですか?」
意図していることが伝わったのか、艶やかな漆黒の髪をふわりとかきあげて、父は告げる。
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