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「とある国の姫だ。年はお前と同じ5歳。その姫は、女ながらに、我々魔国が持つ冷気の様な性格を宿した娘だ。あちらにもお前のような性格、表情は好都合であろう。」
完全に勝手な言い分。
しかし、一つだけ。
「僕が5歳になったと、ご存知でしたか」
にこり。
弾ける笑顔で言ってみる。
魔国の者は、その魔力故か、幼少期にあらゆる知識が自然と身に付く。魔力を駆使した様々な魔法は、その力の源を知らないと使う事ができないからだ。
だから、5歳の彼が敬語を使い、大人同然に会話することはこの国では珍しいことではない。
産まれてからまだ一度も切ったことのない、それでも長く美しい黒髪がさらりと肩から落ち、ちょこんと首を傾げたその仕草は、恐ろしく美しく、愛らしい。
だが、父にはどちらも通用しない。
「お前が望むなら、対象を確認することも可能だが」
父から素っ気ない返事が来て、行き場を失った笑顔を少し引っ込めて、簡潔に答える。
「結構です。自分と性格が正反対の者を見て、気に入るわけがありませんから」
その回答を聞くと、父はクスリと少しだけ笑う。おそらく、似ているのだろう。
「ならば、これより儀式を執り行うが、良いか?」
「あ、では、最後に母上に挨拶してまいります。その後で…」
「では、10分後に始める」
それだけ言うと、父は玉座からいなくなった。
儀式を行う場所は分かる。
魔国の中でも特に魔力が溢れる、あそこだ。そこに行かねばならぬほどに、性格を変えると言うのは難しく、困難な魔法なのだ。
それでも、父の力を疑うことは、ない。
が。
「さぁ、母上のところに行かなくては」
さして感情を乗せぬ顔で、少年は母がいる場所を探る。
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