水の色

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自分の机の上には女性教師が用意したであろう、絵の具一式と画用紙が置かれていた。 「焦らず、丁寧に、ですよ?」 声をかけながら女性教師は色を塗る一人一人の様子を見て歩く。 席に座った俊はパレットを開いて絞り出した絵の具に、バケツの水で少し湿らせた筆を付けた。 画用紙に描いた鉛筆の下絵は大きな木が1本、丘の上に立っている風景画。 人も、鳥もいない。 そんな殺風景な下絵の画用紙に絵筆を向けて、俊は手始めに空を塗りだす。 「ああっ、清水くん・・・あなたもしかして夕焼けを描こうとしてるの?」 絵の具が付いた筆で画用紙を撫でていると、自分の斜め後ろ辺りから女性教師の声がかかる。 「・・・もう少し色を薄くしたほうがいいんじゃないかしら?」 筆を止めた俊が改めて画用紙に目を落とすと、空の部分が原色の赤のまま塗られていた。 「夕焼けの丘、素敵な絵になるのが楽しみね」 そう言い残し次の生徒に足を運び去る女性教師の背中を数秒見届けた後、俊は筆をバケツへと動かした。 筆先がバケツに張った水へ近づき、僅かに触れる。 すると、筆先を中心として薄い赤色が水面に円の形を残したまま広がっていく。 幻想的で不思議な感覚に捕らわれて俊は夢中でバケツ内の仕切られた他の水の表面にも筆先を付けていった。 気が付くとチャイムが鳴り、一斉に片付けが始まる。 椅子を動かす音や絵の具を仕舞う音、子供達の話し声でざわめき立つ。 女性教師は授業開始時と同じように教壇に立ち、両手を口元に当ててメガホンの形を作ると、大きな声で生徒達に告げる。 「では、画用紙を、後ろの棚に、重ならないように、上げて乾かしておいてください! まだ完成していない人も、来週の図工の時間に続きをやるので、絵の具を、忘れないようにー!」
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