本編

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あの夜は、本当に他愛もない話から始まりまし たね。 僕がこの森の一番奥に住み、 絵を描いて少しのお金をもらって生活していると、 ここまでは覚えていますね? では、この小屋の中のことはどうですか? こんな殺風景な部屋ですが、 ひとつだけ気に入りのものがあると、僕は「あの人」に言いました。 さあ、何でしょうねぇ。 …おや、忘れてしまいましたか? 見渡してみれば何かヒントがあるかもしれませんよ。 思い出しました? ロッキングチェア…? おかしいですね、僕はこの部屋にそんなものが あることすら、 「あの人」には話した覚えがありません。 正解はほら、あれですよ。暖炉に腰かけている 、女の子の人形。 人を愛せない僕でも、あれぐらいは可愛らしいと思うことができる。 残念でしたね、お客さん……あぁ、眠ってしまいましたか。 その林檎、甘くて美味しかったでしょう? まあただ、 口にすると二度と覚めない眠りに落ちるという問題がありますが。 …僕にとってはね、絵画も薬も同じ「作品」なんですよ。 だから見た目も美しくなければいけない。 あなたが本物のシンデレラだったら、 毒林檎に倒れた白雪姫よろしく、解毒剤を含ん だキスで目覚めさせてあげたのに。 まったくここには、 二度と目覚めることのできない嘘つきな眠り姫 ばかりが集まるんだから。 明日は来てくれるかな、僕の白雪姫。
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