0人が本棚に入れています
本棚に追加
あの夜、僕は「あの人」に、 この殺風景な部屋の中にひとつだけ気に入りのものがあると話しました。
さて、それは…… え? …人形……?
ええ、その通りですよ。 これは驚いた。なぜわかったのでしょう。
この部屋を見渡して、たまたま目にとまったものを答え、 あてずっぽうで正解を出したお客さんは何人かいました。
でも、今日はそれができるはずがありません。 だって当の人形がここにないのですから。
昨日まではね、あの暖炉の上に人形が腰かけて いたんですよ。
髪の長い、可愛らしい女の子の人形が。
それが今朝になって突然消えていてね。
見渡してもわかるはずのないものを、あなたは空で言い当てた。
…いやしかし、まだあなたが「あの人」だと特定するのは早いでしょう。
もう少し、お話しましょう?
ところで…やはり林檎はお嫌いですか? 一口も手を付けてはくれないようですが。
言ってくださって構わないですよ? 別のものを用意して来ますから。
…そうですか。召し上がってくれますか。
では次に進みましょう。
僕があの夜、「あの人」に話したこと。
実は僕がつくっている「作品」は、絵画だけではないんです。
さて、何でしょうねぇ。
誰にも話したことのない、僕の秘密の「作品」は……。
最初のコメントを投稿しよう!