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……薬、ですか。
正解ですよ。お見事…。
…いや、でもまだだ。まだわからない。
もしかしたら適当に言っただけかもしれない。勘の良い人なんですかねぇ。
では、そうですね。あなたが「あの人」だと仮定して話を進めましょう。
あの夜も、 僕が言う前にあなたのほうから「薬でしょう? 」と聞き返しましたね?
なぜ知っている?いつから知っていた?という僕の問いには答えず、
あなたはただ悲しそうな声で、 「もうそんなことはおやめなさい」と何度も訴えてきた。
僕は、そんなあなたに恋してしまったのですよ 。
これまで僕の周りには、 作品だの容姿だのを美しい美しいと褒め称える人間か、
そもそも僕などに何の興味も抱かない人間か、 そのどちらかしかいなかった。
間違った行いを正そうと考えてくれるような人 は、どこにもいなかった。
生まれて初めて、 僕のしていることを褒めずに悲しむ人に出会っ た。
それは僕にとっては、言い表せないほどの衝撃 だったんですよ。
…でも、あなたは行ってしまった。
僕の心にこんなに大きな衝撃を残しておきながら、
自分のことは何も明かさずにいなくなってしまった。
だからね、あなたの優しい訴えは僕には届かな かったんです。
僕は今でもこうやって、人に害を及ぼす薬を作 り続けている。
あなたが現れないから悪いんです。
あなたが現れないから、 二度と目覚めることのできない眠り姫がたくさん生まれてしまうんです。
あなたが「あの人」だと仮定して、
あの夜に聞けなかったことをもう一度聞きます 。
あなたは、なぜ僕のことを知っていたのですか?
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