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「はあ」
「あなたは、きっと、これからも同じことを繰り返すでしょう。一週間後も、一ヶ月後も、一年後も・・・。それこそ、定年になるまで、ずっと」
「それのどこが悪い。平穏な生活、それで十分ではないか」
「不快な思いをなされたなら謝ります。ただ、今に満足しているあなたでも、未来ではどう思っていることでしょうか?」
「未来?」
「同じことを繰り返しながら辿り着く未来。それが、今と同じだとしても、未来のあなたはそれに満足しているでしょうか?」
「・・・」
男は言い返せなかった。突拍子もないことをいうセールスマンであるが、自分の心に片隅に思い当たる節を言い当ててくる。
平穏な人生。それは素晴らしい。しかし、それが永遠に続くというのは、あまり居心地のいいものではない。何の刺激もなく、ただずっと同じことを繰り返すだけの人生。言葉は悪いかも知れないが、それでは刑務所にいるのと同じだ。不自由な自由を一生のライフスタイルしなくてはならないのか。そのように感じてしまう、未来がくるかもしれない。
「あなたは一体・・・」
「人は私を神だとか、悪魔とか呼びます。まあ、それらは讃える言葉として悪くないのですが。私のことは、未来屋とお呼びください」
「未来屋・・・。未来屋とは?」
「言葉通りの意味です。未来屋は未来を商売にする者です。お客様に未来を与える。それが、仕事です」
「つまり、その人間にあるいくつかの可能性の一つに導いてくれるというのですか?」
男の頭にSF的な想像が浮かんだ。世間一般でいうパラレルワールド、多重構造世界、平行世界といったものだ。その内のどれかに、この未来屋は導いてくれるというのか。
「お待ちください。そう結論を急ぐものではありません。現実に、そのようなことが簡単に出来たら、誰も苦労しません。私が言う、未来というのは別の人間との運命の入れ替えです」
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