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「運命の入れ替え?」
「はい。世の中には、変わった方が大勢います。貧乏人に憧れる金持ちや、文豪作家に憧れるスポーツ選手。ですが、彼らは憧れるだけです。自分に定められた運命、未来から逃れることは出来ません。そんな事が許されたとしても、誰かがその穴埋めをしなければなりません。どこかの会社の社長さんが突然、貧乏人になったら、その会社はパニックをおこしてしまいます。それを、防ぐ為にも誰かが社長の座につかなければならない。貧乏人だった男がスポーツ選手になり、金持ちが文豪作家になり、スポーツ選手が金持ち、文豪作家が貧乏といった具合に穴埋めが必要です。空白というのは生まれてはいけません。空白を埋めつつ、運命を入れ替える仕事に目をつけたのが、未来屋なんです」
「何だか、分かりにくい話ですね」
男は苦い顔をして言った。未来屋という仕事を聞かされたが、あまりにも複雑すぎる。
「ようするに、私と誰かの運命を入れ替えることで、違った未来が訪れるということですか?」
「そうです」
「しかし、私のような平凡な人間の運命を好む人なんているのですか?」
「何を言いますか!平凡な人生。それに、憧れる人がどれだけいると思っているのか!そのような人生を歩める人など、そうそういません。金持ちや特異な能力を持った者の人生が価値あるように思えますが、そんなのは見てくれです。いくつもの未来の中で、安定した平凡な人生。それは、何よりも価値のあるものなのです!」
未来屋に力説させるも、男は今一つ、ピンとこなかった。平凡、平穏な人生をただ送ってきただけだというのに、それが今になって価値のあるものだと言われても実感が湧かない。
「私が、あなたの前に現れたのも、いくつものクライアントとの取り引きの過程なのです。見てください。このクライアントの数を」
未来屋は興奮気味に、がま口の鞄から一部が伏せられた書類を取りだして男に見せる。
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