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「これが全部、私と未来を交換したい人達ですか」
「そうです。クライアントの皆様は、あなたの未来にこれだけの価値を見出しているのです」
未来屋が出して見せた書類に書かれた人達は、どれもこれも目を見張るほどの人ばかりだった。大企業の社長、政治家、科学者、大学病院の教授、軍事関係者のトップまでいた。
「クライアントは金を惜しまないと申していました。どれも悪くないと思いますが・・・」
意外としか言いようがない。自分の人生にこれだけの人が飛びつくというのは悪い気分ではなかった。これだけ、評価されるのならば、今の人生も悪くないと思える。しかし、未来までもずっと同じことを繰り返すと思うと気が遠くなりそうになる。
「今の話は本当ですか?」
「嘘ではありません。それに、あなたからは一銭もお金が頂きません。すでに、クライアントから頭金を頂いていますから。このような言い方をするのは失礼かと思いますが、あなたは商品なのです。重要な商売道具なのです。未来屋にとっての」
「その商品に未来を選ばせるとは・・・」
「一方的に人生を交換してはよくありません。商品とはいえ、人であることに変わりありません。それに、お客様になる時だってある。ですから、いい加減な扱いはできないのです」
男は見せられた書類に目を通しながら、思案する。どれも、悪くない人生だ。
「一応、聞きますが。ここに載っている人達と人生を交換したら、そこから・・・」
一抹の不安はあった。書類に書かれている人達は、全員、男よりもずっと年配の者達ばかりだ。もし人生を交換した直後に、歳をとって相手が若返ったりでもしたら、良い未来も悪い未来もない。ただ、残された余生を過ごすのみとなってしまう。
「そのようなことはありません。あくまで、あなたの人生ですから。誰にも干渉はできません。ただ、運命が切り替わるだけで、出世するあなたに対して交換した相手は、今までの幸運に比べると多少、悪くはなりますが、最悪になることはない。それは、平穏無事に今まで過ごしてきたあなたが証明しています」
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