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気がつけば太陽は沈み、空は紺碧と表して良い暗さになっていた。
俺が住んでる高層マンションの屋上は、此処等では最も高い建物だろう。
屋上には風が吹き付けて、何処からか木々の擦れる音が聴こえてきた。
オレンジっぽい輝きを魅せている三日月。
月乃が好きだった星や月に近いこの場所には、週に何回来てるのだろうか。
月を眺めてる理由が月乃の面影を追ってるからだなんて
「──────情けない」
アイツならなんて言うんだろう。
『ほら、笑顔になりなよ。幸せが錆びちまうぜぇ!?』
とか言うんだろ。
「あ、ここに居たんだ?」
突如発生した音は後方から響いてきた。
じろっと肩越しに覗くと、栗色の短い髪を風に靡かせて陽菜が立っていた。
あれ?なんだ、俺、この光景を見たことある?
なんだか嫌な予感と冷や汗が溢れる。
それは、陽菜が近づく度に増えてゆく。
気を紛らす為に視線を戻し、柵に肘を付きながら、空を───いや、月を見る。
「その青いブレスレットは月乃のだよね?」
なんだ、この既視感……。
頭にはノイズが駆ける。
思考を邪魔するかのように、蝕んでくように。
「……もらったんだよ、アイツが死ぬ前日に」
五月蝿い。
ノイズが激しくて、入ってくる音は風切り音だけだ。
月と星の輝きも増した気がする。
月乃が居なくて腐った俺には眩しすぎる、鬱陶しい。
「どうかしたの?」
あぁ、どうかしたんだろうね俺は。
月乃が死んでから、壊れた。
青いブレスレットが霞んで高速に陽菜へ向かう。
鈍い音と感触が手を埋めて、赤と青が混ざり合う。
身体の点々が温い液体を被った。
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