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第7話
葛原「俺の役目はもう終わりだ」
声が切なげに響くオフィスの廊下。
まるで触れられるのに慣れる特訓を辞めるようなことを言われてしまった。
葛原「俺だけに慣れたって、意味がない」
岡野「それは、わかります」
岡野(……でも、さっき鷲見社長に触られるのは、すごく嫌だった。同じことをされても、葛原さんならいいのに……)
葛原「わかるんなら、いいんだろ?」
岡野「…………」
(よくないよ。だって、本当は、さっき鷲見社長に触られたところだって、上から葛原さんに触りなおしてもらいたいくらいなのに……でも、そんなこと……言えない……)
葛原「なんで、黙ってるんだ?」
岡野「怒ってるんですか?」
葛原「どうして、そうなるんだ?」
岡野「顔が怖いから……」
葛原「怒ってない。でも、イラついてる。それは、気にしなくていい。こっちのことだ」
苦々しい顔に、僕はしゅんとしてしまう。
岡野(怒らせたくないのに……)
葛原「俺は、もう退社する。お疲れ」
呆然としている僕の横を、葛原さんが通り過ぎようとする。
その途中、一瞬僕の襟足のあたりを触ろうと手が伸びてきたけれど、その手は僕に触れることなくすっと引かれた。
岡野「っ!!」
葛原「…………」
なにもせず、なにも言わずに遠ざかっていく人を、僕は涙目のまま、呼びとめることができない。
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