第1章

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「戻りました。」 神田が事務所の扉を開けるとひんやりとした空気が流れ込んだ。 「おう、お疲れ。」神田の上司である松本が自分のデスクから顔を出して手をヒラヒラとさせた。 「松本さん・・・」神田は自分のデスクへと戻り、パソコンを付ける。 「何だ。」「俺、警備会社ってもっとこう・・バトル的な「そりゃspだ。入社してから何度目だ。ここは警備会社だっつてんだろ。」ほらよ、と松本が神田に書類を渡す。 「お前みたいに護身術出来るやつらの集まりじゃねーんだ。ただの警備会社の警備員が良いとこなんじゃねーのか。」 神田チラリと松本を見て、礼を言って松本から書類を受け取る。 「ですよね・・・・」 仕事に不満があるわけではない。雑務も多いが自分の身体を使って働く今の仕事に慣れてきていた。 「ほら、早く報告書書いてしまえ。」 「はい。」神田は眉にかかった前髪を一度すくい上げてパソコンへと目を落とした。 「なぁ、俺さっきでんせつの佐藤さん見たんだよ。」「まじかよ!」神田が報告書を書いていると後ろのデスクからそんな声が聞こえた。 ”でんせつの佐藤さん”神田が入社してから、たまに聞く名前だった。 一度、何故でんせつなのかと聞いたところ「でんせつはでんせつなんだから、何故と言われても・・・」との反応を受けた。「久しぶりに見たんだけどよ、本当に猫っぽいよな。」 実際に見たことはない。見た、という人も少ないようだ。たまに耳に入ってくる程度の”でんせつの佐藤さん”。”でんせつ”なんて呼ばれている程なんだからきっと凄い人に違いない! 初めて”でんせつの佐藤さん”を聞いた時はどんな凄い人で屈強な男だと思ったのだが、神田の耳に入ってくる話といえば、 「猫のよう。」 「煮干し食べてた。」 「小柄な女の子。」 「地下のでんせつの部屋からあまり出てこない。」 などで初めの印象からは随分と離れていった。
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