Ⅷ 然して我らは抗う

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 岡田は小さく溜め息を漏らした。 「今は安静にしています。問題はありません。ただ……以前のような活気はありません。まるで人が変わってしまったかのように、魂が抜けてしまったように生きています」  愛する妻子を《進行不可区域》で失い、滅ぼす為だけに二〇年を生きてきた。それが失敗に終わり、怒りの炎は消えたのだ。如月はそうだろうと思っていた。千早が撃ったとはいえ、内藤の終わりを拒んだのは如月なのだから。  今でも判断は間違っていないと言える。死んでも死者には会えないのだから。会って、謝罪などできないのだから。 「君はどうだ。最近は」 「新しい部署に移ってから、まだ落ち着きませんね。それに今までのことがありましたから、色々と厳しいこともあります」 「それでも、《GМTC》には移らないか」  公になっていないとはいえ、内藤が仕出かした一連の出来事は、一部のIМIや連盟局の関係者には知られている。当然、秘書であった岡田も加担していた疑いとして調査されていた。  それを、如月は《GМTC社》の協力を得て、揉み消すような形で強引に終了させた。もちろん全てが上手くいかなかったが、内藤へ集中させる形にさせた。故に岡田は証拠不十分とされ、内藤も《GМTC社》の息がかかった病院に隠すように入院させた。  新しい職場として、如月は密かに《GМTC社》の職を提供していた。だが岡田は断り、連盟局の職を続けていた。 「待遇は良くなるでしょう。しかし《GМTC社》の職は海外になってしまう」 「ああ」 「自分がいなくなれば、あの人は本当の意味で独りになってしまう。私はあの人の部下です。それは今でも変わらない」 「そうか」  少し笑ってみせた岡田を見て、如月は安堵した。  両者は挨拶を交わし、その場を後にした。この後も、彼らの関係は変わらぬだろうと確信して。
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